「あー……なんちゅーか。島崎には今度、礼?でもしてもらうけん。な、万代。……泣かんで?」
優しく、優しく、言い聞かせるような、許してほしいような、丸い声音。
「……い、つ、」
「うん?」
掴まれたままだった左手を離されたのは、ぽろりと涙が落ちたから。
微笑み、訊き返す水島くんがこの濡れた頬に手を伸ばすのは、わたしがなにも知らないと思っているからだ。
「今度なんて、あるの……?」
水島くんの手が、まばたきが、止まる。
じわり、じわり。視界が滲んでなにも見えなくなる前に、踵を返した。
階段を下りる足音は、わたしのものだけで。とうに授業が始まっているころに、涙を拭っているのもわたしくらいで。踊り場で折り返してすぐ、階段に腰掛ける生徒がいるなんて、思わなかった。
「……み、」
みくるちゃん。そう言い掛けた途端に、熱い涙があとからあとから溢れ出た。
みくるちゃん、あのね。
わたし、聞いてほしいことがあるの。
しゃくり上げて言えないわたしの声を拾うように、よく知ったぬくもりが、手を繋いでくれた。
「……行こ、万代。4階に使ってない教室があるんだよ」
手を引かれながら歩き、空き教室に入っても、みくるちゃんはわたしが落ち着くのを隣で待っていてくれた。



