「わたし先生に本当のこと言ってくる」

「は!? いや、ちょ、万代っ!」


左手を掴まれ、自分にしかわからないくらい小さく、心の奥底が反応する。


水島くんを見れば、まだ困惑の色を浮かべていた。


「先生には言わんで」

「……どうして」

「もう処分通知だって張り出されちょる。島崎のためとは言わんけど……俺が嘘ついたんは、そうすれば全部、」

「丸く納まると思ったから?」

「……ん。そう……万代のことは怒らせちょーけどな」


申し訳なさそうに微苦笑する水島くんのそれは、わたしにとって不必要なものだった。


嘘つき。水島くんの、嘘つき。


どうして本当のことを言ってくれないの。

どうして転校するって話してくれないの。


自分が嘘をつけば全部丸く収まると思った理由に、この学校の生徒じゃなくなるし、なんて思いが交じっていたのなら、やるせない。


停学になっても、お父さんに怒られるだけだから、なんてことない? 学校に行けなくてつまらないとか、友達に会えなくて寂しいとか、少しも思ってはくれないの?


あと2か月もないのに。


今日は、今日しかなくて。明日は、明日しかなくて。

もうすぐ迎える夏休みまでと同じ日々は、二度と訪れないのに。


「……まだ怒っちょる?」


怒ってる場合じゃない。泣いてる場合じゃない。だけど不安げに顔を覗き込んでくる水島くんに込み上げるのは、怒りや悲しみよりも、彼に対する愛しさばかりだった。