「水島くん!」
施錠されていなかった屋上に続く戸口を押し開けた。
視界いっぱいに灰色の空と、しとしと降る雨が拡がる。
肩で息をするわたしは一歩、屋上に踏み込んで。
「……びっ……くりしたー……」
塔屋の壁に寄りかかり、雨をしのぐ限られたスペースにあぐらをかく水島くんを見つけた。
「びびらせんなや万代ー」
丸くさせていた目を弓なりにさせて笑う、水島くん。
「……停学、って」
そんな処分を受けたばかりにはまるで見えない。
「あー。それ、な。ほんとだけん。聞いて、見て? わざわざ来てくれちょー?」
「ほんと、って……。どうしてそうなるのっ!」
みんなは隠れてバイトしていたのかって思ったんだろうけど、そんな秘密も、暇も、水島くんにはない。
「バイトなんかする時間があったら、水島くんは図書館とか病院に行くじゃないっ」
資料を。情報を。水島くんは大事な人を救うために、必死にかき集めていたんだから。
「……気付いて、そう言えるんは、万代だけじゃなぁ」
見開かれていた目の端をゆるませ、水島くんは言う。
「バイトしちょったんは、べつのやつで」
「島崎くんでしょ……」
それなのにどうして、水島くんが停学になったの。
わたしは立ったまま、座りもせず、彼を見下ろした。



