――あ。消しカスを掃うと横に置いてあった塾の課題が机の上からなだれ落ちる。反射的に掴んだプリントが1枚くしゃくしゃになってしまった。
保たれていた集中力がすうっと遠ざかっていく。
気付けば部屋も窓の外も真っ暗で、唯一の明かりが机のライトのみであることが、余計に気を散漫させた。
置時計が差す時刻は午後9時を過ぎている。
どうりでお腹へった……。
お母さんしばらく遅くなるって言ってたけど、今日も帰ってこないのかな。
椅子に縛り付けていた体を解放すると静寂な空間にあくびが吸い込まれる。
ルームシューズの滑り止めがぺたぺたと妙な粘着音を出しているのを気にしつつ、簡単な身支度を整え、家を出た。
おでんを買おうと決めて向かった最寄りのコンビニには、数名のお客さんがいた。
「あと、うどんもお願いします」
店員に頼むと携帯が鳴る。
なんだ、瞬か。と思うのはいつものことなのに、今日はいつもよりガッカリしてしまった。
「……はい」
『ああ万代。お前さっき家出たよな? コンビニだろ』
出てないと言いたくても、門扉を開閉する音が聞こえたんだろう。昔からそうだ。もっと静かに閉めればよかった。
『飲み物買ってきてくんね?』
「残念ながらもう会計中でして」
『昼休みにパシッてやるって言っただろうが。赤牛買ってこい。青いやつ。ロングのほうな』



