矢継ぎ早に浴びせられた言葉に押し黙ると、バッグから財布を取り出したお母さんが歩み寄ってくる。


「しばらく帰り遅くなるから。適当に食べて」


差し出された1万円札は、きっと今月分のお小遣いも入っているんだと思う。


「ありがとう……」

「じゃあね。あんまり遅くまで起きてないでよ」

「……いってらっしゃい」


向けられた背中に声をかけて数十秒後、自宅にはわたしの吐息だけがこぼれた。


「勉強しよ……」


塾の課題も残っていることを思い出した脳内はたちまち勉強のことでいっぱいになった。



いくらエスカレーター式といっても、わたしは確かに受験生。


中等部に上がるときは面接や適正検査を受けるだけだったが、高等部に上がるには内申点はもちろん、学力試験という名の入学者選抜で合格点を取らなければならない。


常磐苑(ときわぞの)学院高等部は外部進学者をつのる併設型。


つまり受験と変わらない競争なんだと、瞬がしつこいくらいに説明してきた。


言われなくてもわかっているから私学専門の塾に通い出して、家でも予習復習をかかさないのに。


いくら頑張っても成績の順位がいつも真ん中から下なのが、瞬は気に食わないらしい。


100位以上離れているならともかく、瞬はわたしより40位くらい上ってだけなのに、どうしてあんなに偉そうなんだろう。