わたしはどうも、一度にいろんなことを考えるのが苦手な傾向にあるらしい。


その証拠に水島くんと別れ帰路についてから、『瞬にバレたらどうしよう』と恐怖におののいていた。


――あれ……お母さん、いるんだ。


念のため言い訳を考えながら帰宅すると、鍵が開いていた。


明かりがともっているリビングに向かう。ダイニングテーブルの前に、腕時計を付けるお母さんがいた。


「ただいま」に「おかえり」という挨拶の定型文を交わし、テーブルにスクールバッグを置く。


そこにはすでに先客がいて、濃いブラウンの箱と、白くて柔らかそうな包装紙の上に置かれたバッグに目を見張る。


これってお母さんが好きなハイブランド、だよね?


「ああそれ、もらいもの」

「え? もらったって……」

「プレゼント。誕生日だからって」


髪を結い直して淡々と言ったお母さんに、サッと血の気が引く。


忘れてた……!


「ごめんなさい! なにも用意してなくて……っ」

「いいよべつに。毎年祝ってるわけでもないでしょ」

「で、でも、料理くらい……っなにか、」

「いらないって。食べてる時間もないし、小1時間くらい前に済ませた。それにエスカレーター式っても一応あんた受験生なんだから、そんな暇あったら勉強しな」