無造作に毛先が散らばった黒髪。イメージと違う、重厚感のあるシルバーピアスが耳たぶにひとつ。


低くはなく、外人のように高くもない小ぶりで筋の通った鼻。薄紅色のふっくらとした唇。深く濃い二重の線。


陽を浴びても色が和らぐことのない漆黒の宝石みたいな双眸は、いつも潤いを帯びている気がする。


美少年……って騒がれるのもわかるなあ。


そんな人の近くに自分がいる機会なんて、そうない。



「水島くん」


数秒遅れて、水島くんが空からわたしへ視線を移す。


「水島くんはどうして、ここにいるの?」

「――……屋上に? ここが中等部でいちばん高いけん」

「高いところが好きなの?」

「好き、なんじゃろなあ。小学生んとき、木の上に秘密基地作ったくらいには」


ふっと笑みをもらした水島くんは懐かしそうに空を仰ぐ。


わたしは彼のことをちっとも知らないけれど、それだけは感じ取れた。



「秘密基地ってなに?」

「はっ!? 知らんかや!? 嘘じゃろ!?」


勢いよくわたしに顔を向けた水島くんの表情は、驚愕で満たされていた。なんだかそれがおかしくて笑ってしまった。すると水島くんは、


「やっぱり東京におるんじゃな、俺」


と、やはり濡れているように感じる綺麗な瞳を細め、どうしてか、困ったような笑みを滲ませていた。