「うわー。いいなぁ! 水泳っ」
「水島くんは部活に入らないの?」
「俺は帰宅部だけん。いいなぁ、泳ぎ放題じゃろ」
にこにこ、にこにこ。笑顔がまぶしい。
職員室までついてくる様子の水島くんと話していると、どうやら高い場所に登る他に泳ぐことも好きらしい。泳ぐというか、浸かるというか、水で遊ぶことが好きらしい。
「俺、川に飛び込むんが好きで」
「え? 川? ……え? 海じゃなくて?」
「なんかやその顔! これだから都会育ちのお嬢様は」
はーやだやだ、とわざとらしく首を横に振る水島くん。
お嬢様ではないけど、確かに田舎で暮らしたことのないわたしは、むうっと頬を膨らませた。すると水島くんは機嫌を取るわけでもなく、むしろ自慢するように笑う。
「川も、川原も。万代が思っちょるよりずっと綺麗だけん。見せてあげちょーくらい」
きらきら。ゆらゆら。とろけそうなほど柔く細めた水島くんの瞳に映る、世界。
それはとても、とても、美しいものなんだろうと思った。
……またそんな風に。愛おしそうに、口にするんだね。
懐かしむことも、郷土愛を持つことも、決して悪いことじゃないのに。どうしても、どうしても、苦しくなる。
敵わない。そう感じてしまうことが、苦しくて。
「じゃあ、きっと水島くんは気に入るね」
削りに削った情報で話題を逸らしながら、彼の興味を引こうとする自分がいた。



