職員室に用があり廊下を進んでいると、下駄箱付近で上級生たちと話している水島くんを見つけた。
放課後まで囲まれるなんて、さすが。
声かけないほうがいいかな。バイバイくらい言いたいんだけど……女の先輩ってちょっと怖い。
あと5、6歩ほどで通り過ぎるかというとき、水島くんがわたしに気付いた。その表情が初めて言葉を交わした日――教室にいたわたしを見つけた日のそれと重なって、
「水島くん」
無視できないと思ったときには自分から声をかけていた。
ひぃっ! ごめんなさい!
一斉に振り返った上級生3人に肝を冷やす――と。
「ああ、ごめん! 俺が頼んだのにっ」
先輩たちになにか言った水島くんが、駆け寄ってくる。
「ごめんごめん。ありがとなーっ」
目の前まで来た水島くんはなぜかわたしが手に持っていた紙を奪い取り、笑う。先輩たちは名残惜しそうにしながら下駄箱へ向かう。
わたしは後方を盗み見た水島くんが安堵の溜め息を漏らすまで、頭上に疑問符を浮かべていた。
「あの、なんか、嫌なことでもされた? 大丈夫?」
「平気へーき。そういうんじゃなかけど、部活の勧誘がいつの間にか――…は!?」
「えっ!?」
「水泳部!? 万代、水泳部入るかや!?」
「え、あ……うん……」
水島くんがわたしから奪い取り、たった今返してくれたのが入部届けだということを思い出した。



