『1-D、水島京。至急、生物準備室まで』


昼休みも残り10分というところで校内放送がかかった。腰を上げた水島くんの背中が疲れている。


「俺ってもしかして昼飯食べない奴に見えちょーかや」


振り返った水島くんは「放課後まで持たんかも」と肩を落とす。


わたしは自分の弁当箱を見てから、水島くんが持つランチクロスに弁当箱、箸入れを指差す。


「それ、片付けとこうか……?」

「あ、じゃあ頼んでよか? ありがとなー万代」

「ううん。いってらっしゃい」

「いってきまーす」


水島くんは横長のベランダを突っ切り、生物準備室へ向かった。受け取った弁当箱は少し重い。


「京っていつもあんな感じ」

「えっ? いつもご飯食べられないくらい忙しいの?」

「や、さすがにいつもじゃないか。今は外部生とか先輩に騒がれてるから、余計に忙しいだろうなーって。京って中等部のころから良くも悪くも先生にすらモテモテだし」

「……秀才なのにサボり魔だもんね」

「まあ自業自得と言えばそうなんだけどさ。わかっててやってるなら効率悪くない? 先生を落胆させない程度に手を抜くとか、彼女は作らないって明言するとか、いくらでもやり様があるじゃん。だから京を見てると疲れないのかなーって思うんだよね」


疲れては、いるんだろうなぁ。


水島くんが屋上に出入りしていたのは、わたしの息抜きと同じなのかもしれない。でもそのことをみくるちゃんたちが知らないってことは、水島くんは疲れていても口にしないんだろう。


屋上や病院の前で見た水島くんの横顔を思い出し、ちくりと胸が痛んだ。