「また閉じ込められちゃいますよ」

「ん。そうじゃな。ほんと俺、バカ」

「……、眠いなら家で寝ないと。風邪引きますよ」

「ん。迎えに来てくれちょー? ……ありがと」


顔を上げた水島くんの声も微笑みも、弱々しかった。


うん……。だからわたしは水島くんを取り戻しに、屋上へ来たんだ。


風邪を引いてしまうことよりも、また閉じ込められてしまうことよりも、べつの心配を先にしていた。


そしてわたしは目に入った本当の傷に狼狽する。


「み、水島くんっ。耳……! 血が出てる!」


乱れたままの黒髪から覗く右耳。そこにあるのは、ピアスひとつのはずだった。


「血? あー……開けたばっかだけん、そのせいかや」

「待って、さすがに冷やすものは持ってないけどっ……」


バッグの中を漁る。ポーチからミニ消毒液を取り出し、ポケットティッシュも準備完了。


「はい!」と差し出すが、水島くんは目をしばたたかせて受け取ろうとしない。かと思えば、急に顔を背けた。


「ふっ、なん……っなんで消毒液持って……くくっ」

「なんでって、これ持ち運び用だから小さいんだよ!?」

「ははははっ! そ、そういうことじゃなか……っ」


お腹を押さえて笑い転げる水島くんに、今まで何回顔を赤くしただろう。


やがて笑い声はくつくつというものに変わり、水島くんはやっとわたしと目を合わせる。


「ごめん。ありがと」


ありがとーな、万代。


水島くんは潤む瞳を柔く細めた。