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夏休みが明けて1週間以上経てば、これが日常、という感覚を取り戻していた。
「イタタタタ」
「取れたよー。数本引きちぎったけど、そこはごめん」
「……平気。りっちゃんは容赦なくそうすると思ってた」
ショートカットのりっちゃんは誤魔化すようにぺろりと舌を出してみせる。
わたしは髪の毛が数本絡まるヘアゴムを手に、ため息。
生まれつきの癖っ毛はなかなか強情だ。
体育のたび胸下まである髪を結えば、ほどくとき絶対に絡まってしまう。
おでこが広めなのに前髪もずーっとセンターパートだから、ストレートヘアへの憧れは強くなる一方。
「やっぱり縮毛矯正かけようかなあ」
「えー。そのままでいいじゃんか。万代の髪、ロングでふわふわしててかわいいのに。てか校則でパーマ禁止」
「そうだけど、他の子もかけてるし……」
「髪の毛の5本や6本、くれてやんなっ!」
「りっちゃんってたくましいよね」
これでもか弱い乙女なの、と言うりっちゃんに聞き返したくなった気持ちはこらえた。
「わっ! 万代ほらっ、見て!」
バレーで強烈なサーブを打ち、クラスメイトに恐れられるりっちゃんでも、確かに心は乙女だもんね。
バシバシと腕を叩いてきたりっちゃんの目線を追えば、そこには必ず男子がいる。
女子のことは目に入っているのか、いないのか……。



