水島くん、好きな人はいますか。



「お母さん……!」


病院まで送ってくれた事務員と受付で別れ、大部屋に運ばれていたお母さんのもとへ向かう。


驚いたように目を見張るお母さんは、ベッドの背もたれを立ち上げ、体を起こしていた。


よかった。点滴はしているけど、最悪な状況じゃなかっただけでもほっとする。


「やだ、なんでアンタがいんのよ」


パイプ椅子を引き寄せると、お母さんは自ら正解を導き出した。


「連絡したのか……余計なことを」


額に手を当て、ため息をもらすお母さんの顔色はあまりよくない。看護師さんが過労だと言っていた。


お母さんの生活を見ていれば納得もいくけれど、気を失ったあと頭を打ったわけでもないようで、よかった。


「今日1日入院なんだよね。なにか欲しいものある?」

「そういうのいいから。ひとりでどうにでもできる。学校早退させたのは悪かったけど、大したことない。明日の午前中には退院する程度なのよ」

「……飲み物買ってくるね」

「ちょっと、万代っ!?」


制止を振り切り、財布だけ持って病室を出た。


点滴中は動きづらいだろうし……お母さん、のどが乾くほうだから。


ご飯は食べたのかな。軽食も買っておくべきかな。


……帰らないと、迷惑かな。


立ち止まってしまいそうな足を無理やり前に出す。



――大丈夫。逃げない。
今帰ってしまったら、前と同じだ。