「ありがとう万代」
「……」
「楽しかった。俺をここに連れてきてくれて、ありがとう」
また首を横に振りそうになる。だけどそれは、“どういたしまして”の意味じゃなくて、やめておいた。
「見たくなったら……また来てね」
「ん。そーするけん。帰り徒歩? 送っちゃる」
「ううんっ! 大丈夫、ほんとに! わたしも久々にプラネタリウム見られて楽しかったから! それにほら、お見舞いの件とか、いつも勉強教えてもらってるしっ」
必死に訴えると、水島くんは少し不服そうにしてから頬をゆるませる。
「じゃあ、今日付き合わせたべつの礼考えとく」
「え!? いいって言ってるのにっ」
「ははっ! じゃ、また明日! まっすぐ帰れよっ」
水島くんは手を上げ、軽い足取りで人の波に紛れていく。
「……言い逃げ」
では、ないか。たぶん無理して送ろうとしてくれたんだろうな。
理由なんてわからないけど、今日はどうしたって愁いてしまう自分がいて、悟られたくなかったのかもしれない。
……元気を出してほしいって思ってたのにな。
ありがとうって言われて、どういたしましてって言えなかった。
わたしはそのときどうしてか、“行かないで”って思った。
いつか水島くんの笑顔が見られなくなるんじゃないか……って。根拠もないのに恐れたんだ。



