病院からマンションまで歩いて30分強。バスを使っても徒歩があるから濡れることには変わりないし、どうしよう。


「いつ晴れるんじゃろ」


濡れてもいいんじゃないの?という問いは、屋上で見た水島くんの横顔が被ったせいで喉に引っかかる。


……思い出した。


笑顔が似合う水島くんは相手が誰であろうと笑ってる。だけどそれは“いつもじゃない”って思ったことがある。


見上げればそこにあるのに、決して手の届かない領域。


晴れていても、雨が降っていても。水島くんは感情ひとつ表に出さず、なんの表情もたたえない。


屋上でも水島くんは今と同じように、ただ無心に空を仰いでいた。



「なにが見たいの?」


ゆらりとわたしに顔を向けた水島くんは、ひと瞬きのあいだに微笑みを浮かべていた。


「うん?」

「……、なにか探してるみたいだから。見たいものが空にあるのかなって」


口の両端を上げたまま、水島くんの視線が落ちる。


「星雲、とか?」


星雲? 光害のある都心じゃまず無理なんじゃ……。


「天の川とか、天体? 星が見たいの?」

「んー……まあ、なんとなく。星空ってどんな感じだっけ?って思っちょーだけ」


形容できない感情が、胸の中で渦巻く。


開きかけた口を閉じて。訊いてしまいそうになったそれを、飲み込んで。携帯を取り出し、検索をかける。