その名前が呼ばれたとき、幸弘は聞き間違いだと信じて疑わなかった。

 ざわめきが耳をとらえたが、それでもまだ他人事だった。

「おいっ」
ショウが肩をゆすぶったときですら、目立つことするなよ、と言いそうになった。しかし、ショウの目は真剣だった。

「え?」

「皆川幸弘君ってあなた?」
女がショウを見て尋ねる。

___今、何て・・・?

「違います、こいつです」
とっさにショウがこちらを指さした。

 視線が女と合う。

「さぁ、前にきなさい」

 そう言われても、幸弘はまだ動けずにいた。現実感が乏しく、なぜ自分が呼ばれたのか理解できなかったのだ。