「私、はじめてなんで本当にご迷惑をおかけしますが、一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします」
バスガイド用のステンレス製のバーにつかまりながら、佳織は言った。

「あぁ、こちらこそたのむわ。俺、山本っていうねん」

「関西の方なんですか?」
そのイントネーションに佳織は尋ねた。

「まぁな。もう愛知に住んで20年やけど、ちっとも大阪弁は抜けへん。なんでやろな」

 意外に人なつっこい笑みでこちらを見てくる。歳のころは50歳くらいだろうか。運転焼けをしていない腕を見るところによると、正社員ではないのかもしれない。

 
「すまんけど、今日の予定全然把握してへんねん。教えてくれる?」

 悪びれた様子もなく言う山本に、佳織は手元の資料を見て答えた。
「私たちのバスは、札幌私立北高校3年5組の担当です。生徒38名と担任1名の39名の予定です。これからまずはヒルトンホテルへお迎えに行き、そこから東海北陸道を通り岐阜の下呂温泉を目指します。途中休憩は、ひるがの高原サービスエリアですね」