「珀ちゃん、始めようか」

「はい」

「……珀…」

秋頼先生に呼ばれ、私は休憩からまたリハビリに入る。
名前を呼ばれ振り返ると、何かを言いたそうな珱平。

「どうしたの?珱平」

私がそう聞くと、

「いや、何でもない」

珱平は素早く首を横に振った。
その表情は、笑顔…のような、泣き顔のような…
まさに、『色んな感情が混ざっている』ように感じた。

私がまた聞こうとしたのを悟ってか、

「俺、オーケストラの準備あっから…行くな」

珱平は、この場から立ち去った。

私の心に、少しずつ小さな穴が出来ている感覚がした。
そこには、冷たいような、温いような…そんな風が通り抜けた。