店を出て歩きだそうとした時。

立ち止まり 「ちょっと待って」 と言った千尋。


「どうした?」


訊くと、ニッコリと笑って俺の目の前に立ち、ブレザーのボタンに手を掛けた。


「わたしと会う時は、いっつもかけ間違えてるよ?」


無邪気な笑顔。

小さな手が掛け違えたボタンを直す。


窮屈に感じるその理由、それは“罪悪感”ってヤツだろう。

そしてバカな俺でも気づいてるんだ。
掛け違えた物が他にもあることを。


ふと、前に愛莉に言われた言葉が頭をよぎった。

『自分のことも、わかってないかも』

確かにそうかもしれない。

だけど今更どうしたらいいっていうんだよ?

気づいたからって今更どうしようもできないのに。