狂愛ゴング


「——なに! すん……だ!」


ばっと体を離して頬を抑えながら少し新庄と距離を置く。

周りの人の視線がちくちく私に突き刺さる。新庄の方も見てると思うのに私だけが見られているみたいだ。ちくしょうが!

なんで……なんでまたするかなこのカスは!
しかもここは道端だ!


「ほっぺにキスしただけじゃん」

「すんなーー!」


私の叫びに新庄はくっくっくと声を上げて笑う。

自分の望む反応をしなかったからってここまでするの? なんなのその単細胞。そのことしか考えてないの? 

そのためならキスでもなんでもするなんてほんっと最低だな!


「いやがる顔はかわいいのに」

「死ねや」


こういう耐性だけはどんなに頑張っても出来ない自分が憎らしい!

嫌いな女にここまでするってなんなんだろう。もうちょっと貞操というものをだな。

真っ赤に染まった顔が自分でも分かる。こんな顔ではなにを言っても無意味な気がして、なにも言えない。

ぐぬぬぬ……ほっぺにキスくらいで……。


「あんた……ほんと、嫌い」


こんなことしか言えないなんて。


「知ってるし俺もお前嫌い」


知ってるよそんなこと。


「嫌いな女にはなんでもしやすいし、俺のことを嫌いな女は楽しい反応するなあ」


私のキスはそんなに安くない。金払え。
前回のファーストキスの分も含めて1億で許してやる。

手を握られても抱きしめられても肩を組まれてもなにをされてもしれっと出来たらいいのに……くっそ。

こんな男に赤くなるなんて私の体温がもったいないって言うのに……。