「ちょ、待て、しん——」
「はいはいはい、お前も廊下で騒ぐな。あと口が悪い」
「だってせんせー!!」
呆れ気味に先生が私に声を掛ける。
落ち着けと言わんばかりに肩をポンポンと叩きながら。
落ち着きたいのにそうさせてくれないのはあの男だって言うのに!
「病院なんて行きませんからね!」
「分かってる分かってる、はいはいはいはい、ほら、行くぞ。……て、お前。どこ怪我したんだ」
……ん?
先生が私の肩に手を置いたまま、床を見つめて呟く。
釣られるように私も視線を落とすと、そこにぽたりと、血が2滴ほど落ちていた。
「ん? 怪我?」
どこを?
そう思って背中を見たり腕を見たり。けれど特に怪我なんか見当たらない。
いや、手がちょっと痛いかな。
「掌切ってるじゃないか。いつこんな怪我したんだ。ガラスか?」
ぱっと手を広げると、そんなに大げさではないけれど少し切れてじわりと血が滲んでいる。
……さっき突き飛ばされたとき、かな。そういえばガラスも飛び散っていたし。あのガラス、誰が片付けてくれるんだろう。ガラス代請求されたりするのかな。
まずいなそれは。
「本当にお前は落ち着きがないな……ガラスが入ってたらまずいしとりあえず保健室行くか。もしかして新庄も、そのこと言っていたんじゃないのか?」
「いや、それはないです」
先生の後ろをついて歩きながら、とりあえず最後の言葉にだけは即答した。
あいつは私に頭がおかしいとか言ってたし。ただの嫌味だ、あれは。
しかも私でさえ気づかなかった傷。
あいつかそんなものに気づくはずはない。
万が一気づいたとしても、あの言葉は優しさからだなんてことは、ありえない。あいつがそんな感情を抱くはずがない。
自分の掌を見つめて、「……まさか、ね」と鼻で笑って呟いた。



