狂愛ゴング


新庄の瞳に自分の間抜けな顔が写り込んでいる。


「別に」


新庄はつまらなさそうにそう言って踵を返しすたすたと歩き始めた。

……放って置いてもいいんだろうか。俺は帰る!って感じですか? それともついてこいという意味なのか。どっちだろうか。

なんだか置いて行かれたような気分になるんですが。いや、それもそれでいいんだけど……。

立ち尽くす私に気づいたのか、教室のドアまで勝手に行ってしまった新庄が脚を止めて振り返った。

だけど新庄はなにも言わない。ただ、私を待つようにじっと私を見てそこにいる。

帰ればいいのに。放っておけばいいのに。

そんなふうに私を待つな。逃げられなくなってしまうじゃないか。


「くそ」


新庄のまなざしから逃げるように少し視線を下にして新庄に向かって歩いた。





新庄は案外律儀、というか文句を言いながらも与えられた仕事はこなす人だったようで。

あれから2日。

普段は顔を合わせても鼻で笑うくらいだけれど、放課後になれば必ず私を迎えにくる。

もちろん迎えに来るから優しいなんて言う気はない。
態度は相変わらず偉そうだし、暴言は日に日にひどくなってるような気さえする。

でも、必ず私を迎えにくる。
駅までしか一緒に歩かないし、駅まで行ったところでなにかするわけでもない。お互い家に向かって別方向に行くだけだ。

新庄だってこんなことしたくないだろうに、なんで続けているのだろう。
やめてしまえばいいのに。
私がなんだかんだ迎えに来られると一緒に帰ってしまう、ってのと一緒でただの意地だとは思う。