これがただのいやがらせかと思うと、ここまでできるマメさだけは拍手を送ってあげる。
送ってあげるから、相手は私じゃない人にしてくれ。
「私、友達と帰るから」
「え? いいよ別に。彼氏と帰りなよ」
そっけなくそう答えると、空気をあえて読まない泰子に殺意がわいた。
新庄はそんなやりとりを聞いて鼻で笑う。
くそ! ちくしょう!
「友達がいないかわいそうな彼女のために向かえに来たんだからはやくしろ」
ぴくぴくっと血管が反応する。
いや、落ち着け私、こんな奴に振り回されるのはやめようと今決意したばかりじゃないか。
笑顔だ、笑顔でスルーをしようじゃないか。
そう言い聞かせてへらりと笑ってみせる。
「なにそのアホな顔。不細工がもっと不細工だな。気持ち悪いから俺を見るな。お前仮面でも被って生活した方がいいぞ。俺らのために」
……なんで生きてるのかなこの男。
いやいやいや堪えて堪えて。
必死に拳を握りしめながら自分に言い聞かす。こいつにいつまでもまともに付き合ってたら私血圧上がりまくって血管破裂する。
「今日はなにをするんですか……?」
笑顔はさすがに出来なかったけれど、出来るだけ怒ってない素振りをする。
新庄の傍まで目を見ないで自分の怒りを抑えながら近づくと、ずいっと新庄の顔が近づく。
っていうかあんたはいちいち近づきすぎ! なんなの? 近視なの? それともただの変態なの?
「……な、なに!?」
じっと私の目を見るその目が……嫌いだ。
中まで見ようとするようなそんな顔。
そのくせ真っ黒の瞳は逆に相手には中を見せようとしないみたいで狡い。
横に流れていたはずの髪の毛が一房、さらりと落ちてきて、微かに私の額に触れた。



