狂愛ゴング


「なに? なんかあったの?」


「……な、なんでもないわよ!」


私の顔を下から覗き込みながら、泰子がにやにやして言う。
自分でも顔が真っ赤だとわかるくらい顔が熱い。


「えー、あっやしいー」


うるさいわよ!
なにもない! なにもないと思えばいいのよ! そうよ! あれは……あれは、なんだ、そう、えーっと、なにもなかったんだ!


泰子の言葉に、ぐっと堪えるようになにも言わずにすたすたと席へ向かって逃げた。

これ以上一緒にいたらなにを言われるかわかんない。絶対にこんなこと言いたくない。誰にも言いたくない……。一生隠し通さねば。墓場まで持って行こう。

クラスメイトたちがちらちらと私を見る。

多分新庄とご飯を食べたからだろう。なにを話したかとかが気になっているのかもしれない。ったく。無駄に目立つ男はこれだからいやだ……。
いいかげん飽きてくれないかな。

……これで、あいつが性格もいい学園の王子様みたいな存在だったらどうなっているんだろう。いじめにでもあいそうだ。


「すみーー!!」


椅子に腰を下ろすなり、教室に戻ってきた女友達が私の姿を見つけて大声で叫ぶ。

なんだよもう、次はなんだよ。
私はそれどころじゃないんですけど? いかにして新庄にギャフンと言わせるか考えるので忙しいんですけど?

人にキスしたあの鬼畜な男をこのまま許してなるものか!


「なに?」


はあ、とため息混じりに返事をすると、いつの間にかすぐそばにかけよっきてきた友達は眼をきらきらさせて私を見つめる。

……な、なに?

目の前の友達の、期待とか? 喜びとか楽しさとか……そんないろんな感情を感じるような視線に一瞬たじろぐ。