狂愛ゴング


「睨まれてるよ」


相手に見えないように、こそっと人差し指を廊下に向け、私はその先を追いかけるように顔を上げる。

誰かに睨まれるようなことしたっけ?

だけど、その疑問は廊下にいる女の子の顔を見てすぐに解消された。

長い髪の毛、長い睫。私よりもかわいい女の子。
ギロッと蛇のように睨み付けてくるその女のは、昨日新庄に泣いてすがった女の子と同一人物のようには見えなかったけれど、確かに、昨日の女の子だ。


「ブスのくせに」


聞こえた! 聞こえた!
今絶対ブスって言った!!

廊下まで数メートルあるっていうのにハッキリ聞こえたその声。


「……な、な、な」


なんでそんなことを言われないといけないのよーーー!!
と、叫びたいのに、余りの驚きで声が出ない。

口をパクパクさせる私に、彼女は「フン!」と鼻息を荒げて背を向けた。


「なにあれ」

「……新庄と付き合ってて、昨日振られた女の子……」


さすがの泰子もぽかんとした顔で口にした。
見知らぬ女の子に大声でブスって言われたらそりゃ笑うどころじゃないか。


「あはは、八つ当たりじゃん!」


速攻笑ってるし!
笑いごとじゃないわよ! 確かにかわいくはないかもしれないけど、ブスではないと思うのに!

新庄にも言われ、見知らぬ女の子にまで言われたらさすがにへこむ。


「よくわかんないけど、あの子は新庄が本気で好きで、振られたのが澄のせいだって思ってるってことでしょ? すっごいよねー。っていうか澄なんかしたんじゃないのー?」

「あいつがわたしのせいにしたのよ」


なんであの新庄のあの行動を信じるのかなー……。