分かっていたことだけれど、泰子は席を立って私のそばに近づいてきた。きっと昨日のデートの感想でも聞きたいんだろう。
「どーだった? デートは」
はいきたー。
予想を裏切らないね!
「なんもないよ。途中まで一緒に歩いたけど、あいつの最低さを知っただけ。もう二度と隣を歩きたくないし同じ空気を吸いたくない」
「月に行くしかないんじゃない? それ」
「将来大富豪になって月に家建ててやる」
なにが面白いのか、泰子はケタケタと声を出して笑い続ける。
泰子も私の立場になってみればいい……笑えなくなるんだから!
そもそも付き合うってなんなんだろう。いやがらせならもう充分じゃない?
別に愛を語り合う訳じゃないし、そもそもお互い好きじゃないし、寧ろキライだし。なんでいやがらせの為にわざわざ付き合うんだろう。
もうなんか全てがわからない!
誰とも付き合ったことがないから余計にわからない!
それを差し引いても、あの男と付き合ってきた女の子達はどんなふうに付き合ってきたんだろう。あんな男とどんな時間を過ごすのか。
さっぱりわからない。
下手したら刺されてもおかしくないレベルで罪深い最低な男だと思うのに。まだ生きているってことは、そこまでの男ではないのか。
「はーあ」
机に頭をのせて、目の前でなにかを話続ける泰子に耳を貸さずに窓から見える空を見つめた。
「ちょっと、澄」
「んー?」
トントン、と私の肩を叩いて呼びかけてくる泰子の方に視線だけを向ける。
さっきまで楽しそうにしていたっていうのに、ちょっと小声で、私の様子をうかがうような泰子の顔。
今度はなに?



