狂愛ゴング


「帰るなら帰れば?」


私の様子に気付いたのか、店の中から新庄が私を見て声を掛けた。
自動ドアは、開いたまま。


「…………」


帰りたいけど……悔しい。
こんなふうに新庄に振り回されるのが、悔しくて仕方ない。

……こいつは。きっと誰かに振り回されたりしないんだろう。

私のように、誰かのせいで怒ったり、失敗をして後悔をしたり。そんなことはしないだろう。自分のしたいようにする。いやならしない、それだけだ。

多分、こいつは私とは真逆にいる。


「変な噂がたつのがいやだからとかだろどうせ。別にお前がいようがいまいが俺は腹減ってるんだから食べるしお前はお前で好きなようにしろよ。めんどくせーな」


……なんであんたはそんなに普通なのよ。

余りにも普通で、アレコレ考えてる自分が馬鹿みたいだ。図星だって言うのも悔しい。きっとこの男には私がいようといまいとなにも影響はしないんだ。


——その方が楽だと思うのに、なんだかソレも悔しい。

振り回されているのは、私だけか。ほんっと、ムカツク。


「食べるし」

「あっそ」


気がついたらそう言ってた。
本当に面倒だな私。自分でも思う。

負けず嫌いで、なんだかんだ振り回されてる。やりたくなければやらなきゃいいのにそれすら出来ない程頑固だ。同じ土俵に上がらなければ気が済まない。


「くっそ」


隣に並んで自分に苛立ちを感じる。


「あ?」


なんもないから。あんたにじゃないから睨むな。無駄にでかい身長から私を見下ろすな。