「……わか……た」
気のせいかと思う程小さな声が聞こえて、足音が急に遠ざかっていくのが分かった。
いやいや、なにわかってんの? わかってないだろお前!
「ばいばーい」
あっかるい声でサヨナラを告げる新庄の声。遠くはなれていく足音から察するに、彼女には聞こえていないだろう。
ああ、こいつは彼女に対して今、なにも感じていない。あれだけ傷つけて、泣かれても。むしろ楽しんでいるようにさえ思う。マジでなんなのこの人。人? ケモノ? 鬼?
——っていうか!
「……ちょ! 離せ! 死ぬ! げっほ! がほぐほ!」
「うっわ、きったねえな。あーもう俺の制服汚れた」
誰のせいだ誰の!
するっと力がゆるんだ瞬間にぷぱーっと酸素を求める私に、新庄は気にもしないで制服を払う。
昨日のアイスをべっとりつけてやりてえ。
「あんった……けほっ……ほんっと最低だね」
「褒め言葉?」
褒めてるわけないだろうが。
「よくもまああんな嘘つくね……傷つけたいだけのためでしょう……私に密着してまで」
私の言葉に、新庄は“よくわかったね”とでも言いたげに笑った。
他に言い方はいくらでもあったはずだ。彼女を傷つけないのは無理でも、出来るだけ傷つけずに納得して別れる方法もあったんじゃないかと思う。
でも、こいつはそれをしなかった。わざと。
そしてなにより傷つける方法を選んだ。
私を使って、お前なんかもういらないのだと言いたげに。
それを、心の底から楽しみながら。
「最後の、あいつの顔だけは——……ちょっとよかったけどな」
本当に……なにを考えて、今、そんなにも満たされた顔をしてるのだろう。
脳みそがどんな作りになっているのか、頭を割って見てみたい。



