狂愛ゴング


あーもう昨日はアイスクリームも食べられなかったしお母さんに怒られるし今日は今日でなにひとつとしていいことがない。

疫病神かさては。この男。
さっさと駅に着かないかな。確かこいつの家の方面は私とは逆のはずだ。同じバスに乗ることはないだろう。


「俺映画見たいから払え」

「クソが」


見たかったらひとりで行け。自分で払え。


「あー私お腹空いたからご飯払って」

「ブタが」


そう言うこという? 思春期の女の子に。

そんな何度も暴言を吐きながら、少し間を開けながら取りあえずなんとなく駅に向かう私たち。

なんじゃこりゃ。
本当に付き合ってるみたいじゃないか。わーもう気持ち悪い!!


「し、新庄くん!」


そう思って全身に立った寒気に震える私に、背後から女の子が呼びかける声が聞こえた。

正確には私にではなく、新庄にだけれども。


「あ」


振り返った先には、なんとなく見覚えのある女の子。

走ってくる様子が昨日の女の子と重なった。

昨日、新庄に泣かされた女の子か……あんなふうにあしらわれたのに追いかけてくるなんて相当の物好きだな……。

蓼食う虫も好き好きってね。

しかもちゃんと真っ正面から見れば、そこそこかわいいじゃない。

自分で言うのも悲しいけれど、私よりも充分かわいい。
睫も長いし、潤んだ瞳は女の子らしい上に色気まで感じさせる。

私たちは少し脚を止めて彼女が追いつくのを待った。

隣の新庄は、若干眉間に皺を寄せていたけれど……無視して歩いて行くのかと思ったのに彼女が来るのを待っている。

多少の罪悪感とかはあるのかな。

これを優しさと呼ぶには甘すぎるけれど。