「……っぶ!」
「一緒に帰ろうと思って」
その言葉だけを聞けば、優しい彼氏みたいな感じかもしれませんけどね……。
私の頭は机とゼロ距離。
後ろからがっしりと頭を捕まれ、ヤツの力で顔面を机に押し付けられている。鼻が……潰れそうなんですけど。
「——っはなせ!」
ばしっと手を振り払おうとするもすいっと風のように交わし、私を見下ろしながら軽蔑のまなざしを送ってくる。
ぐぎぎぎぎ。
なんでそんな視線を向けられなければいけないのか!
私がしたいくらいだっていうのに!
「なんなのよ!」
「一回で理解出来ないほど馬鹿なのか?」
「……っ帰るわよ!」
ばんっと机に掛けてあった鞄を取ると同時に新庄の足に向かって当てる。ささやかな反撃だ。
「——って……!」
「は? なに? 男なら痛みくらい黙って耐えたら?」
ふふん、と鼻で笑うと、新庄は苛立ちの籠もった笑みを見せてきた。
心の中ではおそらく『このバカ』とか思ってるんだろう。はははん。負け犬め!
「案外お似合い?」
泰子? 殴っちゃうよ?
ぼそっと呟いた泰子を私と新庄が同時に睨むと、さすがの泰子もさっと視線をそらした。
そもそも、なんで一緒に帰らないといけないんだろう。付き合っているから? 意外と律儀な男だな。
そもそも付き合うってなんなんだろう? 一緒に帰ること? 理由もなく? 好きでもないのに?
隣で歩く男も、私と一緒に歩くのは心底いやそうな顔をしているのに。
お互い一緒にいたくないのに、なんで一緒に歩かないといけないのかさっぱりわからない。



