狂愛ゴング


「……ってっめ……」


おでこを付き合わしたまま、痛みに顔を歪ませる新庄の顔が、さっきまで私を占領していた怒りを少し和らげる。

ざまみろ! ゲスが!

私も痛いけど、そんなもの気にならない程だ。ざまあみろ!


「付き合ってるってどういうこと……今すぐ撤回して。今すぐ消えて。地球から出てって。自分の国に帰って」


そう言って、ふん! と鼻息荒く新庄から離れ、すぐさま防御態勢を整える。

さっと、すっとすちゃっと! 来るなら来い! もう負けないからな! もうお前みたいな外道には騙されない!


「す……すみ……!?」


私の行動と発言に、追いかけてきた泰子が、いや泰子だけじゃなくクラス中のみんなが声を殺しながら私たちを見つめた。


「……お前、俺のこと嫌いだろ?」


新庄が少し額をさすりながらそう言った。手で目が見えないけれど……口元は笑っている、それが怖い。

ぞくっと体が震えた。


「俺も、お前のこと大っ嫌いなんだ」


……ええ、そうでしょうとも。好きとか言われたら禿げる。吐く。今すぐ吐いて倒れる。


「でもさ、嫌いなままじゃダメだと思うんだ」


そう言って窓辺に腰掛けていた体をぐいっと起こして真っ直ぐに立った。

その姿は、悔しいほどにかっこいい……かっこいいよりもキレイといった方がいいかもしれない。

長い手足に、キレイな瞳。性格はくすんでいるのに瞳はキレイ。


「人類みな友達だし、もしかしたら一緒にいたら好きになるかもしれないし? 嫌いな気持ちなんか抱いてたらもったいないだろ?」


それはゆっくり。

一歩ずつ私の傍によってくる。同じように後ずさりたい気持ちを堪えながら、分からない程度に後ろに下がった。

丸わかりで下がったら怖がっているみたいで、悔しい。だからさりげなく下がる。