狂愛ゴング


「なんで逃げんのお前」


隣に並ぶまであと一歩、その時に新庄が私に声を掛けて脚を止めた。


「は?」

「俺が本当に殴るとでもおもってんのか? どんなけ単細胞なんだよ。俺が女を殴るわけねえだろうが。無駄な体力使わせやがって」


単細胞ですと……?
あんたならやりかねないから逃げてるんだよ!
っていうか殴るつもりだったでしょうが、間違いなく!


「あんたこそ……なに追いかけてきてんのよ。ほっとけばいいじゃない」


もう興味なくせばいいじゃない。


「やられっぱなしで逃げるほど俺は心広くないんでね」


よく分かってるじゃない自分のこと。
偉い偉い。


「お前、俺のこと好きなの?」


ふんっと鼻息を荒げて新庄を見る私に、新庄はさっきまでとなに一つ変わらない表情と声で、私に聞く。

なんで……そんなこと聞くのかな……。
一瞬なんのことかわからなくて言葉を失ってから、言葉の意味を理解して、ぐっと自分のスカートを握りしめて新庄から視線をそらした。


「……き、嫌い」


これ以上の言葉なんか思いつかない。
嫌いだよ。大嫌いだよ。この気持ちはウソじゃない。

……だけど嫌いじゃない。

だけどそんなことを告げてどうなるの。それを言われたらどうするの。
あんたは、どうしたいの。

言葉に詰まる私に新庄は突っ立ったまま私を見つめる。

見るな馬鹿。