「私……ケホケホ、あ、風邪なんで……」
嘘だけど、信じろ。
『あ、そ』
あら、意外と物わかりいいのね。
新庄の返事に少し拍子抜けするものの、ほっとした。よし、諦めろ! 女の子を殴ろうなんて野蛮な考えは忘れ去れ!
『今から家に殴りに行くわ』
ぎゃああああああ!!!
「や、行きます! 今から行きます! 家にはこないで! 迷惑! 死ね!」
『は?』
は? じゃねえ!
なに考えてるんだ。
女の子の家に来て殴るとか! お母さん失神するわ!
カスもここまで来たらもうホント拍手! しないけど! クズが!
『逃げんなよ?』
「逃げるわ! 視界に入るな!」
そう言ってぶちっと携帯の電源を切った。
信じられないあの男。本当に人間じゃない。あんなに心の狭い男見たことない。狭いどころかないんじゃないの?
いや、そんなことより取りあえず。
これ以上家にいるわけにはいかない。
このまま家で隠れてたら本気でここに来るかもしれない。私の家を知るはずはないのだけれど、あいつのことだ……どんな手を使ってでもきっと来る。
それだけはいや!
がばっと体を起こして急いで身支度をした。
時間を確認すると2時間目が終わった頃。
取りあえず……学校に行って逃げ回るしかない。どこでもいいから行けばいいけど、それだと家で待ち伏せされるかもしれない。
姿を確認してもらって、あとは、逃げる!
たくさん寝たし体力は持つだろう。
足の早さに自信はないし、あいつのほうが足も長いし正直勝てるとは思えない。
でも、生きるか死ぬかの鬼ごっこだったら逃げ切ってやる!!
ここで敵が来るのを待ってたら負けだコンチクショー!
逃げることで戦ってやろうじゃないか!



