狂愛ゴング




——プルルルル

携帯電話から鳴り響く音に、ぱちっと目が開く。

いつの間にか……眠っていたんだろう。
暫く状況がわからなくて、布団から顔だけを出して部屋の中をくるりと一周見渡した。

まだ、昼間だろう。
部屋の中は電気がついていないけれど、十分明るい。どれくらい眠ってたんだろう。

——プルルルル

携帯電話はベッドの上でブルブルと震えながら音をひびかせる。

誰だろう。泰子、かな。
携帯を手にして通話ボタンを押した。


「はいー……」

『お前、なにしてんの?』


寝過ぎたからか朝よりも重い瞼が、声を聞いた瞬間にばっちりと開く。

低い低い声。怒りが込められているだろうその声は、私の思考を一気に夢から目覚めさせる。
ま、さか。まさか……。


「し、んじょ……う?」


え? なんでなんで?
携帯の番号とか教えてないはずなんだけど!


『お前、今度は人の頭に鞄ぶつけてずる休みかよ』

「や、え? え? いやいやいや」


なにがいやいやいやだ。
なにを言っているのか自分の言葉ですらわからない!

自分でもよくわかんないけど取りあえず状況説明して!

なんで新庄が私の携帯を知っていて、なんで急に電話なんか掛けてきたんですか? 怒っている理由はわかるけれど。


『今すぐ来い。殴る』


だれがいくかああああああ!!!!

本気で殴るつもりだこの男!

切れすぎでしょう!? 鞄くらい許せよ。そんなことで誰からか聞き出した電話で呼び出すとか、どれだけ心がせまいんだ。

ちょっと宗教とか勉強したらどうだろうか、この男は。
右頬を叩かれたら左頬を差し出せとか、そういうことを学べ。こいつのばあいは殴った相手を地面に埋めるだろう。

行くわけねえだろうが!