さすがに私の力では、新庄がよろめいて尻もちをつく、なんて面白いことにはならないけれど、よろめいてプリントから足が離れる。その隙に拾い上げて土を払った。
払ったところでどうにかなるような感じではない。
ぐっしゃぐしゃで、もう茶色の紙に染まってしまっている。
新庄は「く、くく」と喉を鳴らすように笑い始めた。
なんって気分の悪くなる笑い方だろう。
じろりと睨みつけると、新庄は私を見て「ふーん」とこれまた気分の悪くなる笑みを見せた。
こんな奴に付き合ってらんない。
ち、と舌打ちをして立ち去ろうとすると、伸びてきた手が私の頭をがっしりと掴む。
まるで私の頭をボールみたいに。
「な」
なんだよ!
っていうか痛い! 指が頭蓋骨にめり込みそうなほど痛いんですけど!
容赦しねえのかよこの外道が!
振り解こうにも振りほどけないほどの力で、私を固定する。
私よりも頭ひとつ分上にある新庄の顔が、ゆっくりと目の前に移動してきてきた。
それはそれは甘い笑顔を貼り付けて。
「覚えてろよ?」
顔と言葉が一致してないんですけど!
死神に目をつけられる感じってこういうことなんでしょうか。
さっきまで強気だった心が一気にポキンと音を立てて折れる。
私魂売られてしまうかもしれない! 助けてお母さん!
呆然としていると、新庄はぽいっとゴミを投げ捨てるかのように私の頭から手を払って踵を返した。
しかも、汚いものを拭き取るように制服に手をこすりつけながら。
くらり、と体がよろける。
えーっと……、えーっと。これで、終わりってことで、よろしいか?
さよならってことだよね。
やったね解放された!
なーんて、喜べる状況じゃないことは、わかる。
新庄の背中は私からどんどん遠ざかって小さくなっているはずなのに、大きく見えて、どんどん後悔が膨らんできた。



