狂愛ゴング


「別に関係ねえだろ? 終わったようなもんじゃねえか。ほら、帰る用意しろよ鈍くさいな」


えー意味が分からない! 意味がわかんない! 日本語しゃべって!!


「ほっといたらお前また勝手に帰るだろうが」

「べっつに帰ったっていいんじゃないですかー? ひとりで帰りたいときだってあるし」


意地になってふいっと顔を横に向けて、だけどうるさいいから鞄に手を置くと、同時に私の頭にもでっかい手がどすっと音を出すように勢いよくのっかかる。

……痛い。


「人に、オレンジジュースぶっかけて、勝手に帰らせるかよ、ブタが」


低い。

いつもよりも一層低い声で投げかけられた言葉に小さく小さく「はい」と答えるしかできない私……。

机に密着した状態で発せられた声は、多分とても弱々しく、間抜けに聞こえたことでしょう……。


「さっさと用意しろよ」


なにも言えずに、傍で私を監視する新庄。これ以上怒られる前にといそいそと用意をして鞄を背負った。


もう帰るの? という泰子の顔が視界に入って、新庄にばれないようにうんざり顔を見せると泰子はくすっと笑って手を振る。

なにを手を振ってるんだ。
助けろ。

用意が出来たのを察すると新庄はそのまま教室を後にして、私はその新庄を少し駆け足気味に追いかける。

あいつ私と自分の脚の長さの違いに気付いてないのか。すたすたといつもの倍くらいのスピードで歩いて行く。

畜生早い! これで遠くにいたらきっとまたグズだののろまだのデブだの言われるんだと思うと意地。普段も私のスピードを無視して歩くやつだったけれど、まだまだ序の口だったことを思い知らされる。

私の足今の倍の長さになれ! もしくは新庄の身長が縮め!

一緒に、いたくなんかなかったのに。
なにを必死で新庄を追いかけているんだろう。