狂愛ゴング


「そんな顔して、あんただってそうでしょ!?」

「——はい?」


……急に私の話?
思いがけないタイミングで私の話になって、頭が一瞬ついていかなかった。


「いや、さすがに私はちがうと、思うけど」


……だって、ムカツクのは変わらない。

付き合った時から、いや、出会ったときから、あいつに対して腹が立つ気持ちはなに一つ変わらないと思う。心の底からクソみたいな男だと思っているし。

それをわかってて好きになるなんて。

そんなの、バカでしょう……?


「……好きにならなかったらあんなのと1ヶ月も付き合えるはずないじゃない」


元彼女に言われるとその言葉に重みはあるけれど。
いや、まさか……。


「まあ、いいわもう。新庄くんだって、あんたがいいんだろうし」

「……え?」


なんでそうなる……。
首を傾げる私に、彼女はゆっくりと立ち上がって、私を見下ろした。


「あんただけじゃん、今、新庄くんが相手にしてるの」


そして、それだけ言って、そのまま背を向けて私から去っていく。
最後に「じゃーね」と言ったような気もするけれど、返事なんて出来る思考はなかった。


……私だけ。彼女の目から見てもそう見えるのか……。やっぱりそうなのか、な。

いや、だからなに。それがどうした! そんなことされてなんの得になるの!! 寧ろ迷惑な話じゃないの! そうでしょう? ねえそうでしょう!? 優しくされた方がいいに決まってる!


——なのに、なんで。
なんでほころぶの私の顔……!!