狂愛ゴング


廊下で一応"彼女”と並んでいる新庄に告白できるんだから、多少の自信はあるんだろう。

私が知っている限り……、こういう場合、新庄はえげつない言葉で泣かせるばかり。


——『女連れの俺に告白するなんて、大層自信があるんだな』

——『他に女がいても告白するような女好きじゃない』

——『は? なんで?』


告白されたら誰だって嬉しいよ! なんて言葉はこの男には通用しないんだろうな。

新庄がなんて言うだろうかと想像すると、心底クズだと思った。

私だったらいくら好きな人でも、そんなこと言われたら目の前で差し出したラブレター破って燃やすけどね!

てめえなんか好きになった過去抹消! みたいに。


ああ、でも、昨日は……。

昨日のを思い出してしまって、思わず胸が痛くなる。

忘れていたのに。オレンジジュースに全て託して忘れさせて貰っていたのに。


「——悪いけど」


いつもの新庄の声に、心がざわつく。


「俺、澄と付き合ってるから」


そういって、にっこりと微笑む。
その瞬間に廊下がザワ! とどよめいた。


「な? 澄」

「……あ、あん……た」

「な?」


笑顔で人を威嚇しないで!

——そして! 静まれ! 自分の心臓!

ばくばくばくと、鳴り響く自分の心臓を、服の上からぎゅうっと握り潰した。新庄のほほえみになにも言えずに、固まることしかできない。

こんなセリフ、ウソみたいな、いや、ウソのセリフを、聞くのは初めてじゃないのに。昨日だって騙されたでしょ! なに真に受けてんだ私! 

騙されて、悔しくて泣いたじゃないの私! わかっているのに、なんで、また……こんなに動揺しないといけないの!

なんで“こんなのウソだろ、バカの一つ覚えか!”とか思えないの?


「じゃ、悪いけど」


そのほほえみのまま、女の子に挨拶をして新庄はまた歩き始めた。