「何だか宙に浮いているような気分だ。どうしたのだろう。」



孝輔はアキを抱しめながらそんな言葉を口にしている。


今日は三時半に待ち合わせ、そのままここに来た。


その時間帯にしては電車が混み、アキと会った時には、
春と言うのに薄っすらと汗をかき、喉も渇いていた。


アキに勧められ、ビールの代わりにコーラをコップに二杯、続けて飲んでいた。


するといきなり頭がボーっとして、不思議な気分に襲われた孝輔だった。



「アキさん… 」



 孝輔はアキの名前を口にしながらぐったりとした。




「飲ませたか。」



 どこにいたのか男が二人出てきた。



「バッチリよ。いつまでもこんな坊やの相手など出来やあしない。」




「お前は大した玉だよ。この前は大学生、その前は… そうか、あの生意気な弁護士だったな。しかし、どうして今度はこんな餓鬼なのだ。こんな奴、搾り取れないぞ。親は何をしているのだ。」



若い方の男がアキにニヤニヤして話し掛けている。

もう一人は三十代半ばの鋭い目つきをした、
いかにも、と言う雰囲気をかもし出しているクールな男だ。


「とび職の野崎組だよ。」


「野崎組って、あの康生のか。」


その言葉にそれまで黙っていた年長の男がヒステリックに叫んだ。


「お前、馬鹿か。あそこにはあの水島あきらがいるのだぞ。あいつが知れば… 冗談じゃあない、俺は知らんぞ。」

何故かその男、滝口義夫は興奮してアキを睨んでいる。


「兄貴… 」



その様子に、わけの分からない弟分の高井和男は滝口の顔を見つめている。


あきらが中学生時代、仲間まで騙して高校生だと偽り、豊田界隈で暴れていたのは二十年も前のことだが、

少なくとも同じ年代の悪の間ではいまだに記憶が鮮明らしい。