その瞬間会場内は怒涛のような歓声に溢れ、
孝輔も、それまでの孝輔の口からは絶対に出ないような雄たけび、
大袈裟に言えば野獣のような叫び声を上げている。
過度の興奮で顔を赤らめ、
踊るように飛び上がって喜んでいる孝輔を見ながら、
広志は満足そうな笑みを浮かべている。
この子は今までお袋さんに気兼ねして、
こういう素朴な感動を表す心を押さえて来たのだ。
人間は喜怒哀楽の気持を素直に表現するべきなのに…
昔の僕と同じだ。
広志が大輔の優勝が決まり、
その興奮も治まった頃そんな事を考えていると…
あのおとなしいはずの孝輔が、
仲間たちの所に戻った大輔に近付いて行くのを見て驚いた。
そんな行動は… あの孝輔が…
醜いあひるの子が白鳥になったように、
成長を見せた孝輔に対する歓喜の喜び、と言うべきものだが。
「大輔、おめでとう。
でも、早く肩を冷やした方がいいよ。
僕、この湿布を持って来たから、これを使って。
張ってあげるよ。痛かったのでしょ。」
自分に近寄って来た双子の弟・孝輔…
こんな事、絶対に今までの孝輔には無かった態度だ。
あの孝輔が… いつもの孝輔では無い、
と大輔も奇妙な驚きを感じている。
「分ったのか。ああ、あいつの打ち込みは力があった。
俺も一瞬痛みを感じ、ヤバイかなあと思った。」
孝輔が肩に湿布を張っている間に、
大輔は嬉しそうに本心をさらけ出している。
本来なら、たとえ仲間にも隠しておきたい事なのだが…
孝輔が自分のために湿布を持って来てくれた事に対しての感動。
大輔は不思議な喜びに応じている。

