「それでしばらくして根負けした。
仕事ではあいつは力もあり、度胸もあり役に立ったから、
半人前として働かせた。

そして、俺たちが正式に組を作った頃、
おばさんが現われ… 俺たちはトルコ、家に写真があるだろ。
イスタンプールのボラボラス大橋の補修工事に誘われた。

初めは信じられなかった。
俺たちのような数人しかいないとびにそんな話… 
誰も飛行機など乗ったことのないない奴ばかり。
それだけでも… わかるだろ。

だけどみんな金に困っていた。
金の事だけを考えれば、断る理由はない。
とにかく自分たちの力の限りを、頑張ろう、ということになった。

それで皆初めてのパスポートつくりを始めた。
その頃、あきらの奴、おばさんに、俺も隣にいたが… 
まあ、あの粋がった性格が災いして、かわいそうなほどこっぴどく怒鳴られた。

ああ、めちゃくちゃ泣かされた。
しかし、その後はおばさんをとことん崇拝するようになった。」



それはわかる。


今もあきらさんは、おばさんのことを、会長、会長、と大きな声で呼び、
姿がある内は離れようとはしない。


祭りの時は、特に嬉しそうにペッたりとしている。


おばさんの同級生、高杉さんや水島さんの影は薄い。


そんな事を思い出していると、孝太はまた話を進めている。



「それから、ろくに勉強などして来なかったあきらだが、
トルコへ行くと決ってから英語のテープを聞くようになった。
悟やまだ赤ちゃんのような幼児の和也と一緒に、な。

それを知ったおばさんが、あきらに、
いつかは建築士の資格を持つとびになれ、と言った。

俺たちはびっくりしたが… その頃のあきらは今もそうだが、
おばさんを会長、と呼び崇拝しきっていた。

すぐに夜学の高校に入り、五年かかったが無事卒業した。

それから建築士の勉強をするために専門学校へ通った。
勿論夜だけだから長くかかったが、
28歳の時に無事二級建築士の資格が取れた。

もちろん陰で水島さんが支えていたようだが… 
それでも、とびで建築士と言うのは珍しい。
いや、岡崎では一人もいないだろう。」




そう話して孝太はお茶を飲み、洋風の饅頭を口に入れた。