アリスズc


「剣の傷と…刀の傷ですね」

 リリューは、死体を検分しながら呟いた。

 街道から、少しそれた木々の間。

 彼らは、今夜の野営の場所を探そうと、林に分け入ったのだ。

 そうしたら、不運なことに死体の群れとご対面となったのである。

「テルたちか…」

 死体の傷の説明で、ハレもそう気づいたようだ。

 そして、敵対した相手は──人数や、身につけている剣の様子から、おそらく月側の人間だろう。

 彼らの大部分が、同じ鋳造の剣を使っていたのだ。

 彼らに理解のある特定の鍛冶屋に頼んでいるのか、もしかしたら専属の職人を抱えているのかもしれない。

 今度から、剣を見れば分かる気がした。

 ホックスが、口を押さえて背を向ける。

 殺されて数日たっているせいで、異臭がし始めているのだ。

 どうやらテル組は、速度だけで言えば、順調な旅路のようだ。

「ここは野営には不向きだな…もう少し歩くことにしよう」

 当初の目的を、ここで果たすのは不可能だと判断したハレが、再び街道に戻ろうと促す。

 モモは、去る前に膝をついて手を合わせていた。

 それは、彼女の中で決まりごとになったのだろう。

「戦いなんて…野蛮で非生産的だ」

 歩きながら、ホックスが耐えられないように呟く。

 不慣れな荒事に見舞われて、彼の精神も弱っているのかもしれない。

「その通りだね」

 ハレは、彼の独り言を捕まえて同意する。

「けれど…これが、いまのこの国の現状でもあるのだ」

 大部分の民は、平和に暮らしている。

 しかし、月の人間たちとの対立は、小さいながらに続いているし、夜盗も出るのだ。

「私達が旅をする理由のひとつが、こんな理不尽を肌で知るためなのだよ」

 ハレもまた、彼の言う理不尽を体験するのは、初めてのはずだ。

 しかし、吐き気のする臭気の中でも、イデアメリトスの御子は目をそらさずに立っていた。

 それを見ることこそ、自分の仕事なのだ、と。

 強い、人だ。

 リリューは、そう思った。

 こんなに小さい仮初めの姿の中に──己に厳しい男の顔があるのだ。