アリスズc


 レチの手を引いて家に帰ると、宴は楽しげに始まっていた。

 武の賢者宅で開かれる宴にしては、余りに気さくなその光景を前に、リリューは母を探した。

 父とは、共に都へ帰ってきたが、まだ母の顔を見ていなかったのだ。

「おかえり」

「おかえりなさい、リリュー兄さん」

 顔見知りの門下生に、軽く挨拶を返しながら、彼はレチを引っ張ったまま、ようやく母の前に立つことが出来た。

 ひとまわり、小さくなっただろうか。

 こちらに目をやる、その表情や気配には何の違いも感じられないが、少し痩せた気がした。

「おかえり」

「ただいま、帰りました」

 側にいたエンチェルクにも、軽く会釈を向けると、彼女も同じように返してくれた。

 その視線が、ちらりとリリューの後ろに向けられる。

 ああ。

 そうだと、彼は母の方を向き直った。

「彼女と、結婚することにしました」

 レチを横に引っ張り出すと、彼女はかがり火の灯りでも、明らかに分かるほど赤くなっていた。

「あ、あの…遠く北の生まれですが…よろしいでしょうか?」

 突然のことに対応しきれず、レチは奇妙な言葉を並べていた。

 おそらく、自分でも何を言っているのか分かっていないだろう。

 母は、愉快そうに笑い声をあげる。

「私は、日本人だが…そんな母でもいいか?」

 この国の人間でさえない母は、そんな風に彼女の心配を笑い飛ばすのだ。

「あ、いえ、そんなつもりでは」

「分かっているさ…レチが働き者なのも分かっている。よかったな、リリュー。
お前が貧乏をしても、多分ついてきてくれるぞ…多分な」

 息子の結婚話は、愉快でしょうがない事なのか。

 その後、終始機嫌がいいようだった。

 リリューは、今度は父の元へ行きレチとのことを話した。

 父は、戸惑いながらも彼女を見た後。

「あー…よろしく頼む」

 と、いつもからするとおかしいまでに落ちつかない声で、それだけ言うので精いっぱいだったようだ。