アリスズc


 武の賢者宅では、珍しく大がかりな夕食会の準備がなされていた。

 晩餐室には、料理も酒もふんだんに用意されているし、玄関も晩餐室も扉は開け放たれている。

 桃が頼まれたのは、レチを道場まで案内することだけではなく、出会った門下生に、屋敷に立ち寄るよう伝えることもあった。

 ついでに、帰り道に寄り道をして、行ける範囲の門下生の家に寄ってきた。

 その間、エインは文句ひとつ言わず、桃に付き合ってくれる。

 門下生だけでなく、リスのところへ寄った時は、分かりやすく顔を顰めていたが。

 そんな遠回りをして屋敷へ帰る頃には、多くの人が来ていた。

 武の賢者の部下だろうか、見なれない兵士の姿もいくらかあるようだ。

 桃が嬉しかったのは、その中に自然にロジアやテテラが混ざっていた事である。

 既に、ロジアを隠しておく必要はなくなった。

 まるで自分の子のように次郎を抱き、テテラと微笑み合っている。

 テテラも、両足で立っている。

 まだ、新しい足に完全になじんだ訳ではないが、杖なしでもゆっくりゆっくり歩けるようになっていた。

 後を追って屋敷へやってきたリスは、まず真っ先に彼女の元へ駆けつけ、余計な言葉を山ほど付け加えながらも、足の状態を確認している。

 そんな大勢の人の笑い声と、幸せの笑顔の中、ひらりと白い影が現れた。

「ただいま、桃!」

「コー!」

 驚いてその名を呼んでいる間に、彼女に抱きしめられる。

「おかえり。元気そうで何より」

 ぎゅうっと、その身を抱き返す。

 こうして抱き返せる人を持っている事を、桃はいま本当に喜んだ。

 時々、悲しみが一人の時にやってきて、彼女を寂しくさせることがある。

 けれど、温かい人が、少しずつ体温を分けてくれた。

 身内の性質上、慰めの言葉は少ないけれど、ぽんと肩をひとつ叩いてくれるだけでも、桃の助けになっているのだ。

 コーが、少し身体を離して間近から、桃を見る。

「桃、少し話をしない?」

 優しく微笑む彼女の瞳は、桃を落ちつかなくさせた。

 桃の声ひとつで──コーは、どれほどのことを読みとったというのだろうか。