アリスズc


 高らかに木太鼓が打ち鳴らされた。

 いまかいまかと待ち望んでいた都の町の人々は、その音に地鳴りのような歓声をあげる。

 沿道には、朝早くから人々が群れをなし、門の方を見つめている。

 宮殿から迎えに来た、美しく飾られた馬具をつけた騎兵を先頭に、赤の幌の馬車が都の門をくぐってきた。

 テルとビッテが御者台に出て、人々にその凛とした姿をさらしている。

 エンチェルクは、リリューを探した。

 だが、見つけることは出来なかった。

 おそらく、彼は幌の中だろう。

 自分が顔を出す必要はないと、思っているに違いない。

 緑の幌の馬車が続く。

 こちらは、誰も出てはいなかった。

 ただ、ひっそりと過ぎていく。

 そして、騎馬の男。

 武の賢者だ。

 町民から、よく顔も知られているし、人気も高い。

 農民出身から賢者にまで登りつめた彼は、多くの兵士や一般市民に夢を与えたのだ。

 頼りになる人々の帰還は、エンチェルクをほっとさせた。

 彼らの不在の間、決して平穏ではなかった。

 異国人の勢力との戦いで、キクもモモもひどい有様になったのだ。

 そして、モモはその身体の痛みがようやく消えた矢先に、恋を失うという心の痛みを抱えた。

 彼女を慰められるのは──テテラくらいしかいなくて。

 キクは、『腹いっぱい食べて、寝ていればそのうち治る』だし、ウメは『自分で立ち直るでしょう』だし、ロジアはそんなことには興味はなく、エンチェルク自身は、助言をする資格がなかった。

 昔、エンチェルクは恋を捨てたのだ。

 視野は、今よりも狭かった。

 そうするのが、一番正しいと思ったあの日を、後悔しているわけではないが、心の均衡を崩す原因のひとつになったのは間違いない。

 それを、テルとの旅で整えることが出来た。

 均衡という意味で、この都に頼りになる男たちがいてくれるのは、本当に心強い。

 女たちは強いが、女だけで生きてはいけない。

 エンチェルクは、彼らとの旅や今回の遠征で、よくよく思い知ったのだ。

 そんな頼もしい男たちの帰還を、彼女は本当に喜んだのだった。