アリスズc


「イーザスは…難しい人間でしてよ」

 ロジアは、都にいる同胞の話を、こんな風に切り出した。

 いま、天の賢者が狙っている異国人が、彼だ。

 自制心が無く、躁鬱も激しい。

 人に従うのを嫌うし、同胞だからって手加減はない。

 首ねっこを押さえているユッカスだけに、面従腹背が精いっぱいだという。

 ただ、祖国愛もないことが救いだとロジアは言う。

「あの男には…テテラフーイースルさえいればいいのです」

 いま、そのテテラの義足が作られていると聞いて、彼女は一瞬驚いた後、納得した表情になった。

「ああ、そうでしたわ…この国では、女性も助けられるべきですものね」

 言葉に薄く染み出る皮肉という毒は、ロジアの祖国に向いているのか。

 エンチェルクは、少しずつ彼女の国の話を聞いてきた。

 ジロウを挟んで、長い時間を共有してきたおかげだろう。

 常にどこかで戦いが起き、境界線の引き直しが忙しい大陸。

 ほとんどの女性は、強い男の所有物に過ぎない国。

 そんな国であっても、いや、そうであるからこそ、さまざまな技術の向上が起こる。

 より多くの人間を、効率よく沈黙させるための爆弾。

 海戦を制するための船。

 腕が落ちようが足がもげようが、その後も戦えるようにするための義手や義足の技術。

 そんな爆弾の技術を専有している国が、ロジアの祖国。

 ユッカスは、爆弾伯爵と呼ばれる貴族の子だという。

 強い男は何十人もの女性を抱え込んで、次々と一族が増やされる。

 貴族=強い男という構図の成り立つ国で、貴族の子と言ったとしても、その子の地位はピンキリだ。

 ただ、少なくともユッカスは、その技術を幼少ながらに手に入れており、この国の子ども部隊の総責任者となった。

「ユッカスを止めるなら、早くした方がよろしくてよ」

 ロジアでさえ、何処にいるのか分からない相手を捕まえて、無茶なことをいう。

「ユッカスは、爆弾を増やしているだけじゃないわ…自分の手駒も増やそうとしていてよ…祖国と同じやり方で」

 ざわ、とエンチェルクの首筋に冷たいものが走った。

 一体。

 何人のこの国の女性が。

 かの男の子を産んだというのか。