アリスズc


 ハチは、一目散に声の主へと駆けてゆく。

 建物を迂回して表へ回ろうとするその動物と、反対の方向へと桃は飛び出した。

 火が弧を描いて、ハチの走る音を追おうとする。

「……!!!」

 千載一遇とは、まさにこのこと。

 一瞬、男は見誤ったのだ。

 山追の子の足は、怪我をしていても人よりも速く、駆ける音よりも遠いところで爆発が起きる。

 その爆発が起きた時には。

 彼女は、口元の火を斬り捨てていた。

 その奥にある──頭部ごと。

 男が両手に持っていた何かが落ちる音も気にせず、桃は踵を返す。

 ハチを追った。

 本来、彼女が向かう予定だった玄関の方へと。

 ドォンと大きな音が、建物からも聞こえてくる。

 それどころか、既に煙が出始めていた。

 爆発のせいか、はたまた使用人の持っていた燭台が落ち、屋敷に火がついたのか。

 いずれにせよ、このままではロジアの屋敷は火の海になる。

 玄関先で。

 ハチは、男の足に噛みついていた。

 勇敢で素早いその生き物は、既に爆弾をぶつけられることのない距離で奮闘している。

 それだけではない。

 ハチに気を取られた男は。

 桃の接近に気づくのが遅れた。

 スパッ。

 火は、切った。

 しかし、男は大きく身体を引く。

 手ごたえはあったが、浅い。

 その足が、鋭くハチを蹴り飛ばす。

 すぐに飛び起き、山追は戦う姿勢を取る。

 桃も──追撃を入れるべく、足を踏み出した。