アリスズc


 決める覚悟とは、何だろう。

 桃は、刀を握っているだけで、そんなことを考えていた。

 リリューを斬る覚悟、ということなのか。

 そんな覚悟、決められるはずがない。

『キクは…戦い方ではなく、戦うための心を教えているはずだ』

 トーの言葉が、よみがえる。

 桃も、ちゃんと教えられているはずなのだ。

 彼女だって、一生懸命剣術を学んだのである。

 だが、剣術よりも別に目的があったこともまた、確かだった。

 強くなれば、旅に出られる日がいつか必ず来ると。

 だから、本当に学ばなければならなかったところを、桃はきっと身につけそこねたのだ。

 伯母を見た。

 伯母は、穏やかに自分を見ている。

 力の抜けた、しかし、決して緩んではいない自然な身体。

 ああ、そう。

 そういう形。

 ふぅと、息をつく。

 刀の柄を握り直す。

 一度、目を閉じる。

 ゆっくりと、開く。

 我慢強い従兄は、ブレひとつない姿でそこにいる。

 相手を、きちんと見る。

 リリューの、目を見る。

 静かな、しかし芯のある瞳。

『心を細くまっすぐに』

 伯母の言葉が、ひとつひとつ戻ってくる。

 斬り結ぶ前に、目の前の相手をきちんと見る。

 そして。

 何を斬るか決め、それを貫く。

 命を、身体を──あるいは、己自身を。

 そっか。

 桃は、ようやく分かった。

 私は。

 私を斬らなきゃいけないんだ。