アリスズc


「モモ?」

 朝。

 リリューは、いつもの通り道場へ向かうために家を出たところで──従妹に出くわした。

 夜が明けてすぐ、走って来たのだろうか。

 肩で息をしながら、そこに立ちつくしている。

 何かあったのだろうか。

 問いかけようとするリリューより速く、モモが強く顔を上げる。

「菊おばさまは、いらっしゃいますか?」

 声には、妙に力が入っていて。

 いるもなにも。

 リリューが振り返ると、母が扉を開けて出てくるところだ。

 母もまた、道場へ向かうところだった。

「いるよ」

 扉越しに聞こえていたのだろう。

 母は、モモに重さを感じさせない声で答えた。

「母から…刀を受け取りました」

 ぐいっと突き出されるそれは、真新しい日本刀。

 ああ。

 彼女も、旅に出るのだ。

 身を守るための術として、帯刀が許されたのか。

 リリューは、自分の腰をちらりと見た。

 昨日まではなかったサダカネが、そこにはある。

「私は、未熟者だということが、刀を持って本当によく分かりました」

 モモは。

 彼女は、突然地面に刀を置くと、そのまま正座をして──頭を下げた。

「申し訳ありません! 私にはまだ覚悟が足りていません! この刀を、お返ししたく思います!」

 朝靄の中。

 武の賢者宅の庭先で。

 少女が、頭を下げて刀を返そうとする。

 そんな姪を、母は見つめた後。

「桃、リリュー」

 母は二人を呼んだ。

 突然、会話に巻き込まれたリリューは、何事かと驚いた。

「二人とも…刀を抜け」

 そして。

 とんでもないことを、言った。