アリスズc


「よし」

 桃は、旅の準備を整えた。

 ハレ達との旅の間、こまごまとしたことは彼女の仕事で。

 そのおかげもあって、旅に必要な荷物、携帯食料についての知識は、既に自分の感覚の一部となっていた。

 通過する街道、町の数、距離。

 全てを頭に叩き込み、桃は家を出ることにしたのだ。

 残るのは、母とコーとエンチェルク。

 人を少しずつ変えるものの、この家はまた女三人になるのだ。

「菊の所在は、町の名前までしか分からないけれど…まあ、誰なりと知っているでしょう」

 母も、その点についてはさして心配はしていないらしい。

 伯母のトレードマークは、山本家に伝わる日本刀だった。

 しかし、それは今はリリューに受け継がれている。

 丸腰を心配して、鍛冶屋の門下生が新しい刀を伯母に届けたという。

 新しい刀の伯母。

 刀を腰にさげ、子を産んだ女性。

 そのふたつの要素があれば、探すのは難しくないように思えた。

「無茶はなさらないように」

 エンチェルクからは、心配の言葉を。

 ただ、伯母の手伝いに行くだけではないと、知っているからだ。

 桃も、その点については、詳しく話を聞いている。

 テルたちが、ひどく気にかけている20年前の事件。

 本当であれば、リリューが行きたかっただろう。

 伯母の見舞いも、弟妹との初顔合わせも、そして自分の過去も。

 だが、リリューは必ず来る。

 彼の仕事が終わったら、きっと来ると桃は疑っていなかった。

「気をつけて、いってらっしゃいませ」

 コーが、まるで夫を送り出すかのように丁寧な言葉をかけてくれる。

 笑ってしまいそうになるのを、やっぱりこらえる。

「気をつけて行ってきます」

 そんな女性三人に手を振って。

 桃は、東へと旅立ったのっだった。